〈プロフィール〉武蔵野音楽大学音楽学部作曲学科を経て、1993年同大学大学院音楽研究科修士課程修了。1993~1995年同大学研究員。1994年に「音環境モデル事業ねりま・いい音の街」(練馬区主催)に参加し練馬区の環境の音を取り入れた作品を提供。その試みは、NHK「おはよう日本」、テレビ東京、ケーブルTVねりまで紹介された。光藍社主催のオペラ公演で「初心者のためのオペラ講座」の講師を務めるなどクラシック音楽の普及に携わっている。
作曲の道に進む
Q:作曲を専攻した理由は何ですか?
作曲を専攻したのは 中学の時。進路に迷った時に、三つの道のどれかにしよう と思っていて、 一つは音楽をやろうか、それとも科学者になろうか、もう一つは商社 マンになろうかっていうのがその時考えた道でした。そこで真剣に考えた時に、何をやったら一生やれるかな?と思ったのが、結果的には音楽です。
昔、本当に科学も大好きで、特に生物が好きだったから、生物の研究もしたいなと思ったりしたし、父親の仕事が輸入業でいろんな海外のものを取り寄せたりしてたので 。自分もそういう仕事も面白いかなと思ったのですが、やっぱり音楽をやるのが一生続くだろうなと思って。自分の地元には音楽高校はなかったので、大学から音楽に進もうと決め、中学の頃に習っていたピアノの先生に相談して、普通高校に通いながら音楽を勉強していました。
Q:好きな作曲家は誰ですか?
正直言ってサン=サーンスはちょっと自分に合わないかなと思ってるんですが、クラシックの歴史に名が残ってる作曲家だったらみんな好きです。作曲をやりたいっていう本当のきっかけの一つは、大好きなバッハでしたね。小学校の終わりぐらいに初めてバッハのインベンションとか弾きましたけど、なんと言ってもバッハの音楽を聴いた時に、世の中にこんなすごい音楽が書ける人がいるんだなっていう感動がありまして、そこからやはり自分は音楽をよりやりたくなったので。ですからバッハは大好きです。
Q:作曲家にとって最も言われたくないことは何でしょうか?
言われたくないことがあるとすれば、「あなたのイメージはダメだね」と言われたら嫌ですね。自分は自分のイメージによって書くタイプの作曲家なので、自分のイメージというものがもしダメだと言われたら書けなくなります。ただ、自分の作品そのもの自体に悪口言われることは全然気にしません。若い頃は(悪口が)やっぱり気になりますよね。自分で言われたことを参考にするしないは別として、 自分自身のあり方っていうか、作り方っていうのがあると思いますので、それが一番大事だと思いますから。今かなり年を取ったので、もう今となっては人のことは気にしないで作っちゃおうって形ですね。
Q:インスピレーションが湧かない時はどうしていますか?
曲を書いていて、インスピレー ションそのものが湧かないっていう時はないのですが、仮に自分にこう何のイメージもない時があったとしたら、その時には一回離れます。例えば、自分の大好きな詩を読んだり、本を読んだり、映画を見たり絵を見たりして、いろんな刺激をもらうみたいなことがあります。やっぱり人間はほかのものからいろんなものの影響を受ける生き物なので、自分はドラマを見るのも好きだし、ほかの曲を聴くのも好きだし、本を読むのも好きだし、だからいろんなものから刺激を受けるので 。
市場性と理想
Q:作曲家として市場性と理想のどちらを優先すべきだと思いますか?
私は個人的にですけど、自分が作曲をするっていうことであれば、理想の方を優先します。でもどうしたって作曲が仕事になる場合には、市場性を無視するわけにもいかないので、その仕事においてケースバイケースだと思うんですけれども、ただ自分が純粋に作曲をしたいと言われれば、自分は理想の方を優先したいなと思いますね。
やっぱり市場性となると、自分の書きたいものは基本的に書けない。結構自分の意思だけでは行かないっていうか、売れ筋のものは意外と自然にできたりもするし、百曲送っても一曲も採用されないみたいなこともあります。市場性を優先すると、やっぱり自分自身のことはなくなってしまう。市場性を優先する作曲を馬鹿にする気もない し、仕事をしたい人はそれでいいと思う。自分はそんなふうに考えます。
和声学について
Q:作曲する際に和声学は役に立ちますか?
基本的に役に立ちます。自分にとっては、響きのバランスやはり和声っていうのは大事なので、その響きのバランスの基本がわかりますから。それが分かった上で、例えば自分なりに音を出したいという時にはそのバランスを崩すのか、そのままのバランスであるのか、あるいは、忘れてはまた違ったバラン スであるのかっていう形での選択肢になるので。基本的に自分に役に立ちます。ですけどいろんな音楽がありますので、和声学が役に立つかっていうと、これは 非常に難しい問題だと思います。役に立つ場合もあるし、立たない場合もあるけど、でも無調というのは調の音楽が あっての無調だから、ある意味では和声とは違うことをやるわけです。和声をしてないと違うこともできないので。どういう形であってもやっぱり西洋音楽にとっては役に立ってると思います。
Q: 普段、喉を守るために食べ物に気をつけていることはありますか?
あんまり気を使っているわけではありませんが、舞台前には油っこいものや塩辛いものを避けるようにしています。これらは喉を渇かせる原因になるからです。喉が乾くと唾液の分泌にも影響を与え、水分を取ったりトイレに行ったりする手間がかかるので、舞台前はなるべく油っこいもの、ラーメンなどは避けるようにしています。
Q:クラシック音楽を専門とする音楽大学には、古典派やロマン派の音楽が好きな人が多くいると思いますが、作曲家を目指すならやっぱり現代音楽を作らなければならないのでしょうか?
面白いことを考えますね、現代音楽を学ぶ必要があるかどうかは本人が決めます。本人が必要なら勉強した方が良いし、必要じゃなければ勉強しなくていいと思います。ただやはり音楽っていうのはどんなものでも歴史があるので、そういう意味においては知りたいと思ったら知った方がいい と思います。でも、例えば無調の音楽がものすごく嫌いだったら、すごく嫌いなものをたくさん聞くのは嫌ですよね。当たり前です。だから無理やり聞く必要はないけれども。興味があるんだったら知った方が良いし。興味がないんだったら知らなくてもいいと思います。本人次第だと思いますね。
友だちをつくろう
Q:在籍生にアイドバイスをいただけますか?
大学で一番友だちができる方法は何かというと、自分はありがたいことにピアノが多少は弾けたので、いろんな伴奏してて、歌の人の伴奏やって、トランペットの人の伴奏やって、それをやってると、ほかの管楽器の人や弦楽器の人から頼まれたりしてたので、ありがたいことになんか友達を作ろうとかいう以前に結構周りに人がいたかなっていう感じでしたね。でも、自分はどっちかっていうとわりと孤独が好きだったので、一 人っきりでいるのもすごい好きだった。友だちがいなかったとしても寂しくはないんだけど、なんか不思議と友だちができてましたね。
作曲家として言えるのは、作曲家として友だちを作りたいんだったら、オーケストラを聞いていてこの楽器が面白いなって思った時には、その人が練習してる時に「お時間ありますか?」って聞いて、楽器についていろんなことを積極的に聞いたりすることで自然に友だちができると思います。
(インタビュー:2024年11月)