バックグラウンド
Q:教えることに興味を持たれたきっかけは何ですか。
子どもの頃は教えることには全く興味がなく、むしろ先生には絶対になりたくないと感じていました。学校は好きではありませんでしたが、英語はずっと好きでしたので、大学で英語を勉強してみました。英語に加えて、日本語教育養成コースも受講していました。そこまで興味はありませんでしたが、卒業に必要な単位にカウントされるコースだったので、母の勧めもあって受講してみました。私の大学はクライストチャーチ工科大学(現在はTe Pukenga アラ・インスティチュート・オブ・カンタベリー)の姉妹校でしたので、3年生はボランティアとして1か月間日本語を教える機会も得られました。しばらく海外に行っていませんでしたので、この機会をつかむことにしました。
Q:ニュージーランドに来られた理由は教えることですか。
クライストチャーチでボランティアでしたので、生徒に教えているという感じはありませんでした。生徒よりほんの数歳年上でしたが、彼らはとても親切でしたので、みんな友達になりました。日本から遠く離れた国で、言語や文化を学ぶことにこれほど興味を持っている人がいることに驚きました。とても楽しかったので、ニュージーランドに教師として戻りたいと思いました。
Q: 教えることのどんなところがお好きですか。
卒業生が日本語を使っていると知ることです。最初は、ニュージーランドで教えるのがとても大変でした。特に、日本の教育制度しか知らなかったので、ますます難しかったです。生徒は宿題をしなかったり、授業中に話したりして、私の話を聞いてくれませんでした。だから、あまり楽しくなくて、本当にかなり大変でした。「どうして宿題をしてくれないんだろう」とか「どうして私の話を聞いてくれないんだろう」と、何度も自分に問いかけました。最初のころは教えることを楽しいと思うのに苦労しましたが、今ではもう15年間教えています。生徒が授業を楽しんでいるとき、教えることは楽しいですが、卒業生が日本語を使っていたり、日本に行ったりしていると聞くと、最もやりがいを感じます。自分が生徒の将来のキャリアや選択に良い影響を与えられたことをとても嬉しく思います。
Q:日本では教えていらっしゃいましたか。
いいえ。大学3回生の時にニュージーランドに来て、本当に戻ってきたいと思いました。そのため、日本に帰って大学を卒業し、すぐにニュージーランドに再び来ました。
Q:日本のどちらのご出身ですか。
日本は島根県の出身ですが、聞いたことがないかもしれません。島根県は広島のすぐ北に位置しており、本州の南西部にあります。
Q:自分の高校の経験はどうでしたか。
私は島根県の出身で、田舎なので、高校の選択肢はあまり多くありませんでした。以前から英語を学ぶことに興味があり、留学したいと思っていましたが、地元の学校にはそのような選択肢がなかったため、広島の高校に通いました。それは広島市内で最も厳しいと言われている、非常に厳しい私立の女子校で、寮に住んでいました。先生たちは怖く、勉強も大変でした。親から少し離れたいと思っていたにもかかわらず、わずか1週間でホームシックになりました。高校2年生の時に、約10ヵ
Q:日本の学校はほとんどが共学ですが、こちらの学校は多くが男女別学です。男女別学について、どのようにお考えですか。
日本の公立高校はほとんど共学ですが、男子校と女子校に分かれた私立高校もあります。私自身、女子校に通っていた経験があり、現在は男子校で教えていますが、特に高校の最初の数年間では、生徒の成熟度の違いが非常に顕著だと感じます。シャーリーボーイズ高校は男子校ですが、女子校であるアボンサイドガールズ高校と同じ建物内にあるため、少し厄介です。生徒たちは図書館や食堂で混ざりますが、それ以外では分かれています。そのため、生徒たちはいつもお互いに気を散らし合い、集中力を保つのが難しいので、私にとっては苛立たしく、もどかしいことがあります。
Q:日本の学校教育とはどのように違いますか。
日本では学校のこと、勉強のこと、友達関係のことは担任の先生の責任です。その仕事は大きい。親との関係も日本のほうが深いです。日本の教え方は、ざっくり言えば、暗記と情報の記憶が中心です。ニュージーランドでは、自分の意見や考え方、自分の見方を持たせるような教育の仕方をしています。何事も「どうしてそう思うのか」とか「どうしてこういうことが起こったのか」とか、「どうやったらそれが解決できるのか」とか、そういう教育の仕方です。
Q:ニュージーランドのカリキュラムについてどう思いますか。
科目によって違いますが、数学や英語は結構詳しく書かれています。しかし、日本語などの言語科目については、「文化的な人を育てる」といったふわっとした内容しか書かれていません。教師がフレキシブルに教えたいことを教えられるという点もありますが、私は15年間教えてきて、常に教材を作り続けている感覚があり、終わりがないように感じています。常に「明日何をしよう」とか「来週何をしよう」と考えています。日本の先生は教科書があるから、「何ページを開けて、ここからここまで読んで」、「漢字をここで勉強して」、数学だったら「今日はこのページをやります」などと言います。オーストラリアでは教科書があるから、なんでニュージーランドにはないんだろう?
Q:もしできるなら、カリキュラムにどんな改善をしますか
教科書は絶対に必要です。ニュージーランドのカリキュラムはとてもローカライズされていて、たとえばマオリ語やその歴史を、ソーシャルスタディーズだけでなく、すべての科目のコンセプトとして教えるようになっています。ローカルなことたとえばここだとトラビスウェットランドという場所がありますが、そういった自然の本来の姿や歴史を教えることが大切だと思います。そのフレキシビリティがあるのはいいなと思うんですが、でもそのリソースは誰が作るんですか。私たちが教えるとなると、専門的な知識も必要ですし、間違ったことを教えるわけにはいかないんですよね。だから、そういう意味ではカリキュラムがフレキシブルでもいいと思いますが、専門家のサポートが欲しいと感じます。それがないと、正しく教えるのは難しいかなと思います。
ニュージーランドの生活
Q:ニュージーランドでは日本ほど礼儀が必要じゃないです。教室でのカジュアルナな態度についてどう思いますか
教え始めたのは15年前なんですけど、その頃は、宿題をしなかったり、テストも真剣に受けなかったりする子が多くて、「テストします」と言うと、「もし落ちたらどうなるんですか?」といつも聞かれていました。それで私が「別にフェイルはフェイルだよ」と答えると、「じゃあ、処罰はないんですか?」みたいに受け止められました。最初は「えっ、なんで?」って本当にびっくりしました。日本とあんまりにも違いすぎて、「なんで?」っていうか、もうストレスというか混乱というか、そういう気持ちがすごくありました。でも、授業中の態度を見ていて、4年か5年くらい教えた頃に、「あ、私が日本人として持っている期待を下げないと、自分が嫌な気持ちになるな」って気づいたんです。ニュージーランドの子どもたちは日本人とは違うということにも気づきました。それから男子校で教え始めた頃、私もまだ若くて、メンターの先生たちから「若い女性の先生が男子校で教えるなら、とにかく笑顔はなしで、厳しくいったほうがいいよ」みたいに言われていました。だから、はじめの頃は生徒との間にしっかりボーダーラインを引いて、先生と生徒の関係をきっちり保っていました。カジュアルに話したり、雑談したりなんて、絶対にありませんでしたね。でも、だんだんと「ここはニュージーランド、特にイーストクライストチャーチなんだ」っていう実感が湧いてきました。人との繋がりや生徒とのコミュニケーションが本当に大事だと思うようになりました。「教える前に生徒を愛する」みたいなことです。カジュアルすぎるのは困りますが、生徒と積極的にコミュニケーションを取ることはとても大事だと思っています。
Q:ニュージーランドは日本より仕事と生活のバランスが良いとお考えでしょうか。
はい、そう思います。日本は仕事中心の生活が一般的ですが、ニュージーランドでは違います。こちらでは、たとえば、周りの人を見ても、4時になると仕事を切り上げて帰る人が多いです。私が昔遅くまで働いていたとき、私のボスに「何をやっているの?帰りなさい」と言われました。だから、ニュージーランドでは、「仕事は仕事」という考えの人が多いと思います。
Q:日本について恋しいことは何ですか
やはり恋しいのは家族と友達ですね。教師の仕事をしていると休みが多いので、けっこう日本に帰れるんです。今は日本に住んでいても、忙しくて実家に帰れない人もたくさんいると思いますが、それは残念なことです。夏休みにはいつも1ヵ月くらい日本に戻って、すぐに会いに行けるわけではないけど、1年に1回か2回帰れるので大丈夫です。
(インタビュー:2025年4月)