ロクマとは
Q:ロクマの歴史について教えてください。
天保 3 年(1832 年)から京都で営業しています。ロクマという屋号は、わたしたちの姓である「路熊(ろくま)」からきています。もともとは版木彫刻(昔の木版印刷の工程)の仕事から始まり、その後、印章(はんこ・ゴム印など)の制作や印刷などへと仕事の幅を広げながら現在まで続いています。
当店では「人から人への輪を大切に…」という理念を掲げています。印章や印刷の仕事を通してお客様との信頼関係を築き、そこから人と人とのつながりが広がっていくことを何より大切にしています。
Q:創業から約 190 年、長く続けてこられた一番の秘訣は何ですか?
時代に合わせて仕事の形を変えながら続けてきたことだと思います。版木彫刻から始まり、印章、印刷、そして現在は海外のお客様向けのサービスなど、少しずつ形を変えながら続けてきました。長く続けてきた経験を活かしながら、お客様の用途やご希望に合わせて柔軟に提案できることが強みです。

老舗印鑑店
Q:京都で長く続いてきた理由と、京都でこの仕事をする意義について教えてください。
京都は昔から「良い仕事を長く続ける」ことが大切にされる土地だと思います。お客様からの信頼を大切にしながら、一つ一つの仕事を丁寧に続けてきたことが、長く続いてきた理由ではないかと思います。
京都は、古くは日本の首都だったこともあり、日本文化に触れるために世界中から多くの人が訪れる街です。その中で、ハンコや漢字といった日本の文字文化を体験してもらえる場所でありたいと思っています。
Q:一番古い記録や、歴史的な価値の感じられる物はありますか?
一番古い記録は、江戸末期(安政 3 年・1856 年)に出版された『草木図説 前篇』という書物に、初代の「路熊敬輔」が版木彫刻師として記載されていることです。また、かつての屋号看板は、稀代の芸術家である北大路魯山人が揮毫したものです。貴重なものが当店の歴史の一部として今も残っていることを、とてもありがたく感じています。

職人として
Q:いい印章を作るために、最も神経を使う工程はどこですか?
小さな印面の中で、いかに文字を美しく配置するかという点に、特に神経を使います。同じ漢字でも、組み合わせによって文字の大きさや形を調整する必要があるため、ご注文いただく一本一本ごとに、全体のバランスを見ながら細かく整えています。
Q:職人として、自分の仕事に納得がいく瞬間はどんな時ですか?
完成したハンコを実際に捺した印影を見て、彫りの具合や文字のバランスなど、全体がきれいに整ったと感じた瞬間です。そして、お客様がそのハンコの仕上がりを見て喜んでくださった時に、この仕事をしていて良かったと感じます。
Q:店主ご自身にとって「いい仕事」とは 何ですか?
お客様に喜んでいただける仕事だと思います。そして、作ったハンコを長く安心して使っていただけることが、結果として一番の「いい仕事」なのではないかと思います。

デジタル化が進む中で
Q:時代に合わせて「あえて変えたこと」はありますか?
海外のお客様にも楽しんでもらえるサービスを始めたことです。以前は日本の方からのご注文がほとんどでしたが、コロナ禍が過ぎた頃から外国人観光客の方からのお問い合わせが日に日に増えてきました。そうしたご要望にお応えできるよう、海外のお客様にも楽しんでいただける商品を考え、少しずつ体制を整えてきました。「KANJI de HANKO」は、外国の方のお名前を漢字に変換してハンコを作るサービスで、日本文化を体験できるものとして多くの方に楽しんでいただいております。
Q:デジタル化が進む中で、印鑑の役割はどう変わっていくと思いますか?
書類のためのハンコは、これからどんどん減っていくかもしれません。ただ、ハンコは日本の文字文化の一つでもあり、自分の名前を形として残すことができるものです。そうした文化的な価値や記念としての魅力は、これからも大切にされていくのではないかと思います。
Q:若い世代に、伝統的な印章の魅力をどう伝えていきたいですか?
日本では、自分の名前のハンコは当たり前のものなので意識することが少ないですが、逆に海外のお客様の方が、ご自身やご家族の名前をとても大切にされていると感じることがよくあります。そうした名前への思いを、漢字という形にして表す喜びや、自分を表す一つの象徴としてハンコを持つ喜びを、若い世代の方にも感じてもらえたら嬉しいです。
Q:これからの「ロクマ」が目指す、新しい挑戦はありますか?
日本のハンコや漢字の文化を、海外の方にもっと知ってもらうことです。「KANJI de HANKO」を通して、その魅力を伝えていきたいと思っています。
先日オンラインショップもオープンしたので、日本に来られない海外の方にもハンコを手にしていただけるようになりました。
https://kanji-de-hanko.easy-myshop.jp/

海外からのお客さん
Q:お客さんから受けた依頼の中で、最も印象に残っているエピソードは?
ある日、たまたま通りすがりで来店され、ハンコを注文された海外のお客様がいらっしゃいました。その方が帰国後に当店を紹介してくださり、後日、別のお客様が来店され、さらにその方の紹介でまた別のお客様が来られるというように、ご縁が数珠つなぎのように続いたことがあります。遠い国から来られたお客様とのご縁が、このように次のご縁へとつながっていくことに、驚きとありがたさを感じました。実は、今回取材に来てくださっている方(インタビュー実施者)とも同じようなことがあり、人から人へとご縁が広がっていくことを実感しています。小さなお店ですが、そうしたつながりの中で多くの方に来ていただけることを嬉しく思っています。
Q:海外からのお客さんは増えていますか?
ここ数年でかなり増えたと感じています。ヨーロッパやアメリカ、メキシコ、スペインなどから来られる方が多い印象です。海外では旅先で駅スタンプを集める文化が人気なこともあり、当店では無料で押していただけるオリジナルの記念スタンプを用意していて、京都旅行の記念にそのスタンプを押しに来られる方も多くいらっしゃいます。また、イラストのラバースタンプや御朱印帳なども人気で、お土産として購入されるお客様も多いです。
Q:海外のお客さんからの反応はどうですか?
とても興味を持ってくださいます。特に、自分の名前が漢字になり、その意味を知ることを楽しんでくださる方が多いです。当店では、良い意味の漢字だけを集めた「漢字ブック」を用意しており、その中からお客様ご自身に選んでいただいています。意味を見ながら漢字を選ぶ時間も、日本文化の体験として楽しんでいただきたいと思っています。「自分の漢字の名前ができた」と喜んでくださる方も多く、その体験を京都旅行の思い出の一つとして持ち帰っていただくことが、わたしたちの願いです。また、ご了承いただいたお客様には完成したハンコと一緒に記念撮影を行い、その写真を当店の Instagram で紹介させていただいています。あわせて後日、購入者特典のデータをメールでお送りするなど、体験の思い出を帰国後も楽しんでいただけるようにしています。
おかげさまで多くのご注文をいただいており、現在は数か月前にご来店いただいたお客様の分まで順次対応しています。
Q:海外のお客さんは、日本の「印鑑文化」のどこに一番魅力を感じていると思いますか?
自分の名前を印(しるし)として持ち、それを押すことで自分を表すという日本の文化に興味を持ってくださる方が多いと思います。海外の方はご自身の名前をとても大切にされている方が多く、その名前が漢字になり、世界に一つだけのハンコになることに魅力を感じてくださる方も多いです。
Q:言葉の壁がある中で、職人としての「こだわり」をどのように外国の方に伝えていますか?
書体の特徴や漢字の意味、ハンコとしてのデザインの考え方などを、できるだけ丁寧に説明するよう心がけています。また、カタカナでのご注文も多いのですが、音だけを表す仮名は文字としての意味を持たないため、当店としては意味を持つ漢字をできるだけおすすめするようにしています。私自身、英語が堪能というわけではないので、翻訳機や AI などを使いながら説明することも多いです。それでも、できるかぎり誠意をもって対応すれば、気持ちは伝わるものだと感じています。
Q:外国の方の名前を漢字にする時、どのように当て字を選んでいますか?
まず、お名前を英字で書いていただき、その発音をカタカナに変換してから、その読みに合う漢字を選んでいただいています。外国の方のお名前は、同じ綴りでも読み方が違うことが多いため(例えば「Michael」は「マイコー」や「ミシェル」など)、何度も発音を聞いて正しい読み方を確認することを特に大切にしています。そのうえで漢字ブックをお見せし、その中からお客様ご自身に選んでいただきます。当店の漢字ブックは良い意味の漢字だけを集めているので、どれを選んでいただいても安心してお作りいただけます。

ロクマのメッセージ
Q:これからお店を訪れるお客様にメッセージをお願いします。
自分の名前をハンコという形にすると、それは世界に一つだけの印(しるし)になります。ハンコは小さなものですが、自分の名前を形として持つことができる、日本ならではの文化の一つだと思います。ご自身の名前や漢字の意味を楽しみながら、世界に一つだけのハンコを作る体験を楽しんでいただけたら嬉しいです。そして、そのハンコを長く使っていただく中で、作った時のことやロクマのことを思い出していただけたら、私たちにとっても何より嬉しいことです。

(インタビュー:2026年3月)



