儚いものを広げろ

関西外国語大学

儚いものを広げろ

PEOPLEこの人に取材しました!

杉原正樹さん

ご当地妖怪研究者

滋賀県彦根市で生まれ育った杉原さんは、有限会社北風寫眞舘代表、DADAジャーナル(滋賀県湖東・湖北の地域情報誌)編集長。妖怪研究歴は30年を超え、2023年に『淡海妖怪拾遺』(2023年)も出版なさっている。そんな杉原さんに、滋賀県の妖怪スポットを案内していただき、お話をうかがった。

妖怪との出会い

Q:妖怪に興味を持ったきっかけは?

妖怪は発行している地域情報紙のコンテンツのひとつでした。妖怪を研究したかったわけではなく、妖怪という存在を通して見えてくる淡海(近江)の歴史や文化、人々の暮らし方が面白くて今も書き続けています。

柳田國男の『妖怪談義』を読んだのがきっかけです。「妖怪は出現場所が決まっているが幽霊はどこにでも現れる」とか、「妖怪は相手を選ばないが、幽霊は決まった相手のもとに現れる」「妖怪の出現時刻は宵と暁だが、幽霊は丑三つ時である」など…。「妖怪は出現場所が決まっている」ならば、淡海にしか出没しない妖怪がいるはずだと思ったのです。 

Q:どうして滋賀県を?

故郷である彦根市には特別な思い入れがありますし、他府県のことはほとんど知識がないので「滋賀県」です。 

京都や奈良と同じくらい、ひょっとしたらそれ以上の歴史があるのに滋賀県は忘れられがちです。振り返らなければ失われていくようなものがあると思っています。昔の渡来人の痕跡も色濃く残り、調べていると妖怪に出会ったりする地域が滋賀県なのです。

Q:研究のインスピレーションはどこから?

 文化の儚さに魅了されています。忘れられていくものが多い中で、その残り方に興味が湧きます。妖怪もそうですが、痕跡のようなものにワクワクします。地域の歴史や文化を背景に出没する妖怪は、再び見つけられるのを待っているようにも思います。

飼い主を大蛇から守るために自分の命を犠牲にした犬「小白丸(小石丸)」の首を祀った犬神神社

Q:30年を超える妖怪研究歴の中で、特に面白いエピソードは?

少し前までは、「妖怪、いますか」とインタビューすると、相手は最初に「ええっ?」と驚いて、「なんで?」と不思議そうな顔をしていたのが印象に残っています。今は、妖怪が注目されていて、「妖怪、いますか」という質問にみな興味津々です。 

湖の東、鈴鹿山系に永源寺というところがあります。その永源寺で人魂が現れたとき、履き物(下駄など)を頭に載せると、誰の魂なのかわかるという話を聞きました。また、湖の北、伊吹山系の伊吹山の麓にも同じような伝承が残っています。永源寺と伊吹という離れた地域で時空を超えて繋がっている。同じ伝承が伝わる理由があるはずなんです。それを考え、妄想するのが面白いですね。遠くからやってきた留学生に、このインタビューを受けていることも、生涯で一番の特別なエピソードです。

独特の文化を追求する

Q:「妖怪」のような分野で研究を進めるのは、難しかったりしましたか?

僕はこの滋賀県で、妖怪研究をし始めた頃は、みんなは、「妖怪って何?」という、すごく違和感あった。それでも気にせず続けてきました。
妖怪に関しては人々の伝承が途切れていたり、私が古文書を読めなかったり、というのが大きな壁です。それに、想像は知識を超えることはありません。自分自身の知識が圧倒的に不足していることも問題です。 

Q:ローカルな伝承について研究したい人へのアドバイスはありますか?

 ローカルだから面白いのです。興味を持って、好奇心を失うことなくその地域を見つめ直してもらえば、そこに特別な何かを発見することができると思います。妖怪なら、一般的に全国的に認知されている妖怪ではなくて、その地域にしかいない妖怪など。

Q:さまざまな伝承は、地方によって異なりますが、矛盾するものもありませんか?

文献や伝承が残っているということは、何らかの事実や伝えなければならない何か理由があったのだと考えています。複数の資料を調べることは大事です。知識を積み重ね、時系列に考えると、つながっている可能性もあります。矛盾していたら、そこには矛盾した理由があるはずなのです。それを妄想するのも楽しいです。

滋賀県にも残る将門の首伝説。将門塚(山塚古墳)に思いを馳せる

Q:手に入れた情報の中から矛盾するところが出てきたら、どうやってどちらが正しいか判断しますか?

それは自分を信じるしかない気がするのです。伝説や伝承は事実に基づいていることがあります。そして必ず疑問が出てきます。もっと知りたいと思った時に、知識が足りないので、そこで壁につき当たります。でも、明らかに間違っていることが、後に分かったりする。間違いを認めてそこからまたスタートすれば、また新しい発見があるのではないでしょうか。

これからの道のり  

Q:既に出版されている『淡海妖怪拾遺』の続編は?

もうすぐにでも!と思いますが、研究・取材を継続して進めています。僕は自身の出身地への興味を創作の源として、作品に強い影響を与えていています。僕の作品では地元の風景や伝承を頑張って描いていて、読者に地域の魅力を伝えることができれば「よかったなあ」と思います。もっと学び、深いところまで、そして興味に任せてさらに学ぶことを続けていきたいです。

「近江の妖怪を語る」講演会

Q:滋賀県以外での活動は?

他府県の同じ名前の妖怪を調べたりすることはありますが、滋賀県でまだやれることが沢山あるので、とりあえずここで集中したいと思います。興味の持ち方は、滋賀県の妖怪から始まりそのつながりで他府県へ…という感じです。

Q:日本人だけではなく、外国人にも妖怪の魅力を知ってほしいと思いますか?

妖怪って、キャラクターとして興味を持つのは簡単だけど、可愛い、面白い,気持ち悪い~、不思議というだけではなく、異形のもの(妖怪)の背景にある歴史や文化にこそ興味を持っていただけるとすごく嬉しいです。日本の『古事記』『日本書紀』、能や狂言にも多くの妖怪が登場します。実は、僕も興味あるところしか読んでないですが!

(インタビュー:2024年4月)

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