〈鈴木先生ってどんな人?〉
研究室を訪ねると、穏やかな笑顔で迎えてくれた鈴木先生。Googleのプロフィール写真からして眼鏡をかけたナマケモノで、研究室のドアにも中にもナマケモノグッズがいっぱいだった。
Q:ナマケモノが好きなんですか?
ナマケモノ、好きです。僕、普通の人よりちょっと手が長いとか、ナマケモノにちょっと似てるとか言われるんですよ。あと、僕の名前は「レイジ」っていうんですけど、『どうぶつの森』ってゲーム、わかりますか? あのゲームのレイジはナマケモノでしょ。あと、英語の「lazy」もナマケモノのことなんでね。まあまあ、すごくない?
先生のprofileより
Q: 幼い頃はどんな子どもでしたか?
今やっている研究とかにも関連するんですけど、簡単に言うと、ゲームが好きで。小学校の頃とかにファミコンとか出てきて、ファミコンの子供の最初の世代の人だから、そういうのをやって、ゲームとか作りたいなとか思ったりして。中学校になってから、キーボードがついてテレビと繋ぐパソコンみたいなのが出てきて、当時のパソコンとかも買ってもらったりすることができて。いわゆる、今でいうところのオタクみたいな感じだったんです。
Q:研究者になるまで、どんな道のりを歩んできましたか。
パソコンとか好きだということがあって、名古屋大学の情報文化学部に入ったの。本当のこと言うと、工学部に入るにはスコアが足りなかったっていう。新しいものが好きなところがあるので、できたばかりの学部の方が面白いかなと思って入ったのね。
その中に、昨年度までずっと一緒に研究してた僕の師匠である有田先生がいらして、有田先生の人工生命の授業を受けて、これすごい面白いなと思って、もっとやりたいなと思った。ありがたいことに大学のスタッフになれたりとかして、ここまで来たっていう感じ。ちょっとレアケースで、大学生の頃からずっと今まで名古屋大学にいるんです。
2010年ぐらいにアメリカのUCLAっていうところで在外研究をしてたんですけど、そこで鳥の先生とかと出会って、鳥を観測する研究とか、その進化の研究をすることになりました。出かけて行って、マイクを持って録音するとか、そういう研究もしています。
複雑系って何?── 渋滞からジャンケンまで
Q:複雑系を一般の人にわかりやすく説明するとしたら、どんな分野ですか。

高速道路のシミュレーション“NetLogo”を映したパソコンの画面
高速道路のシミュレーション“NetLogo”を映しパソコンの画面車はそれぞれずっと加速するんだけど、前に車がいるとちょっと減速する。ということをそれぞれの車が同時にやる。でもそういうことをしてるだけなのに、見ると、ちょうど行き詰まったりする。これが自然渋滞みたいなもので、たくさんの車が集まって、それぞれは別に渋滞を起こしたいと思ってるわけでもない。ところが一回ちょっと止まっちゃう部分ができると、それをきっかけに渋滞の種が出来上がって、渋滞を作り出してしまう。
たくさんの要素があって、それが集まったときに全体を動かしたときにどんな複雑さが生まれるか。そういうことを考える研究分野のことを、複雑系科学と呼んでいます。

じゃんけんのシミュレーション。赤がグー、青がチョキ、黄がパー。自分の周りの人とじゃんけんして、勝った人の手を真似する
最初はバラバラなんだけど、動かすと、だんだん渦巻きみたいなのが出てくる。人それぞれは自分の周りに従って、それぞれがローカルに動いているだけなのに、外から見ると、全体として見ると、ぐるぐる渦巻きみたいなのが出来上がる。自分はそんなつもりはないのに、上から見ると、すごいみんな整ってみんなが動いているように見える。それぞれで動いているのに、全体として何か新しい構造が生まれる。そういうようなことを分かろうという、こういう小さな要素が相互作用したときにどういうものが生まれるか、そういうことを調べるのが僕が考える複雑系の科学です。
「創発」── びっくりが生まれる
Q: 複雑系に興味を持ったきっかけは何ですか。
人工生命っていうのは、社会みたいなものも含めて、そういう生命現象をコンピュータの中で作って、作ることで理解しようっていう考え方。構成論的アプローチっていうんだけど。それに興味を持ったのは、やっぱりさっき言ってた大学の授業の中で。
特に最初に興味を持ったのは、生物の進化のアルゴリズム、遺伝的アルゴリズムっていうもの。コンピュータの中に仮想的な進化する集団を作って実際に動かすような方法なんだけど。

コンピュータって、めんどくさいことの肩代わりをしてくれる道具だと思ってたんです。僕たちが分かっていて、僕たちがやればいいけどめんどくさいことを計算してくれるための道具だと。でもこれは全然違って、僕たちが知らないことを勝手に生み出してくれるって話だ。それなんか全然使い方が違うじゃん。だからすごいと思って、面白いと思った。今も何か作ってびっくりしたい。
Q:「創発」ってどんな現象ですか。
それぞれの構成要素があって、例えばさっきの渋滞の車でもいいし、じゃんけんする人でもいいんだけど、それが相互作用すると新しい構造みたいなものが生まれる。その構造がさらに彼らの動きに影響する。一回渋滞に巻き込まれちゃうと、やっぱり渋滞ができると、その渋滞にまた巻き込まれちゃう。そういう、相互作用したら大きな構造ができて、それがさらに僕たちに影響するっていう、そういう形の状況のことを創発と言っています。
この相互作用する主体っていうか、登場人物みたいなのはいろいろなものが当てはまる。生物かもしれないし、細胞同士かもしれなくて, 全体が一つの個体を表しているかもしれない。人と人だったら全体としては社会みたいなものかもしれない。いろいろなレベルでこういうのってあるよねって、そういうのを分かりたいっていう話です。
最近の研究について
Q:現在、最も力を入れている研究は何ですか。
結構社会のことに興味があったりして。それはなぜかというと、ChatGPTみたいな大規模言語モデルがすごい登場してきて、すごい影響してるのね。すごい簡単に言うと、コンピュータの中で言葉の意味を扱えるようになったっていうことが一番大きい。
例えば、Geminiにゲーム設定とその場の状況を与えて、次のステップでのゲーム・移動戦略を決定してもらう。単純な状況だと、なんか彼らは仲良しグループを作ってくれる。ところが、過去のやり取りの記憶みたいなものを与えると、全然様子が変わって、裏切り者ばっかりになったりする。過去の悪い経験を引きずってしまうような状況だと、うまくいかなくなったりする。
もう一つは、これまでゲーム理論とか単純なルールでやっていたところに、言葉の意味を使って新しい世界を作ることができるようになった。ChatGPTとかってペルソナ、人格を与えると、そのように振る舞ってくれたりする。その仕組みを使うと、言葉で書かれた性格のエージェント群を作ることができて、性格が進化するっていうことができる。
進化した性格を見ると、すごい協力してた人は「優しい」とか「育てる」という言葉が性格に入ってたりするし、互いに裏切り合っちゃう人は「踏みつける」とか「無視する」という言葉が入ってたり。これってまさに人とすごく直接つながる話。今までは小さい世界だったけど、この中で起きていることって、まさに人の社会と僕たちとすごく同じコンテキストで語れる。そこがすごい大きく違うところかなと思います。
Q:その研究の一番の面白さは、どんなところにありますか。
やっぱり、実験する段階ではあまり想像もしてなかったようなことが新しく生まれてくるってことが一番ですね。
Q:予想外の結果が出て驚かれたことはありますか。
予想外のようなことを生み出すことそのものが重要で、それこそ僕たちがやりたいこと。さっきのキリンみたいなのもそうだし。でも、もちろん予想外のことが面白いことが出ましたってだけではなくて、その次の問いは、なぜ起きるか、どうなっているかということをちゃんと理解すること。まずサプライズな結果を見て、なぜかを追跡する。
「生命らしさ」とは何か
Q: 今後、研究はどんな方向に発展していくと考えていますか。
エージェント社会の基礎理論を作りたい。これまでシンプルだったところに、新しい生成AIで複雑さをプラグインするっていう、そういうことをやりたいっていう感じ。
本当にエージェントだけが作るSNSで、AIたちが独自の宗教を作ったりとか。どこまで人の手が加わっているのかわからない怪しいところもあるけど、面白くて。これからそういうエージェントが出てきたときに、どういう影響があるか、どういうことが起きるかっていうことを考えるのが面白い。
僕たちだってChatGPTとか使うから影響を受けてる。ある意味僕たちの社会って、もう「人プラスAI」みたいな社会になってるし。そうなっていることそのものを分析するっていうこともあると思うんだけど、僕たちはもうちょっと、これまでの社会を理解するための基礎理論みたいなものに、エージェント的な要素を入れるとか複雑さを入れたときに分かる、ある種のエージェント社会の中の基礎理論みたいなものを作りたいなと思って。
Q:先生にとって、「生命らしさ」とは何ですか。
生命らしさは、「びっくり」だと思っていて。創発現象っていう、創発をしたときに新しい構造が生まれる、それがくるくる回って何か新しい方向に進化していく。例えば食べ物だけを並べていても、それがどう進化するか分からなくて、ガシャガシャって動かしてみたときに、作ってみて初めて分かること。
なので僕らはいろんな人工世界を作って調べるっていうか、分かる。そのためには『びっくり』をしたい。びっくりしたいと思って、いろんなことに手を出しながら頑張る、ということをやっている感じです。
(インタビュー:2026年3月)



