医学部志望からデザイナーへ、そしてレディースを選んだ理由
Q:まず、英太郎さんご自身について、また、ファッションデザイナーという道を選んだきっかけを教えてください。
現在24歳です。実は、最初からファッションが大好きだったわけではありませんでした。生まれてから高校生ぐらいまでは、ずっと医者を目指して勉強していたんです。高三まで本気で医学部に行きたかったのですが、医学部って浪人する人も多いじゃないですか。でも僕は「現役(一発合格)」で行きたいという思いがすごく強かったんです。国立大の推薦入試のために小論文などの特殊な勉強もしましたが、結局落ちてしまいました。一般入試の勉強がおろそかになっていたので、二次試験もうまくいかず……。3月になって、浪人するか、就職するか、それとも全く別の道に行くかという選択を迫られました。その時ふと「自分が好きなものって何だろう?」と考えたら、ファッションだったんです。今まで勉強してきた医学とは正反対の世界で一度挑戦してみたい、という思いでファッションの道を選んだのが始まりでした。
Q:ブランド「EITARO」は最初からレディースだったのでしょうか?
実は最初からレディースだけをやっていたわけではないんです。ブランドを始めたのは福岡にいた時でした。約2年前、東京に来る前に福岡で軽くブランドを立ち上げた時は、メンズ(Men’s)を作っていました。でも正直に言うと、当時のメンズ作りはあまり結果が良くなかったんです。自分自身もそれほど楽しくなかったというか。その時、一着だけレディース(Ladies’)を作ってみたことがあったのですが、不思議とメンズを作る時よりもずっと楽しくて、自分の適性にも合っていると感じました。デザインというのは、基本的には「誰かのために作るもの」ですよね。その中でも、特に女性のために服を考え、作る時間は、まるで「大切な女性へのプレゼントを悩んでいる時間」とすごく似ていると感じたんです。その感覚が、僕自身の性格にぴったりでした。それで東京に来るタイミングで、「EITARO」を本格的にレディースブランドとしてスタートさせました。ただ、僕の服のベースにはメンズを作っていた経験も入っていますし、「男性の方でも着たければぜひ着てください」という柔軟な気持ちで運営しています。



心の根底を服に込める、「叙情服」の哲学
Q:ブランド「EITARO」について特に「叙情服」という言葉に込められた意味が気になります。
僕のブランドは「叙情服(じょじょうふく)」というコンセプトを掲げています。日本語でも少し難しい言葉ですが、英語の「Lyrical(叙情的な)」と「Wear(服)」を合わせた意味だと考えてください。つまり、人の感情や内面にある心を「形」として表現するブランドです。普通、歌詞(Lyric)というと分かりやすく感情を露わにしますが、僕はもう少し心理学的な観点でアプローチしています。人間が無意識に感じている感情の根底には、実はすごく論理的な思考があると思うんです。「なぜこういう感情が生まれるのか」を深く突き詰めて、誰もが無意識に感じているような本質的な部分を、さりげなく服に落とし込んでいます。これがうちのブランドの特徴です。
無名のブランドが楽天ファッションウィークのランウェイに立つまで
Q:3月21日に開催された「楽天ファッションウィーク東京」のランウェイショーはいかがでしたか?
今回がブランドとして二回目のショーでしたが、楽天ファッションウィークという公式スケジュールに名前を連ねたのは初めてでした。やはりメディアで取り上げられる回数がすごくて、「EITARO」という名前が一気に広がったのを実感しました。正直、世間的に見ればまだ無名に近いブランドなので、普通はこういう展示会にバイヤーさんはなかなか来てくれないんです。でも今回のショーを見て「展示会にも行ってみようか」と足を運んでくださったバイヤーさんが本当に多かったです。国内の大手セレクトショップの関係者の方々も来てくださり、「こういう構成ならもっと売れると思う」といった実践的なアドバイスもいただきました。デザイナーとして本当に大きな勉強になりましたし、ショーをやって良かったと確信しました。
背中に咲く見えない花、「SEHANAGI」
Q:今回の2026A/Wコレクションのテーマ「SEHANAGI(背花凪)」にはどんな意味が込められていますか?
今回のテーマ「セハナギ」は、「背(せ)に花(はな)を纏(まと)っている」という意味です。前シーズンのテーマだった「蛹(さなぎ)」の語源から着想したのですが、セミが脱皮する時に背中が割れて羽が出てくる姿が、まるで背中に花を背負っているように見えるという説があるんです。その姿がとても美しいなと思いました。人間は昆虫のように脱皮はしませんが、日本には「背中で語る」という言葉がありますよね。職人さんが言葉で教えなくても、後ろ姿で生き様を見せるような。僕は、人がそれぞれの過去の経験や人生を積み重ねていくと、それが背中に「見えない花」となって現れると思うんです。だから今回は、その「背中」にメッセージを込めたデザインを多く発表しました。

パリ進出への夢と、社会に貢献できるデザイン
Q:今後の目標や、英太郎さんが個人的に抱いている夢について教えてください。
ブランドとしては、今年の6月から国内のブランドコンテストなどに積極的に挑戦していく予定です。僕はパリへの憧れが非常に強いので、東京での活動を足掛かりにして、最終的にはパリの舞台に立ちたいと思っています。この業界は継続していくことが非常に難しいと言われていますが、一歩ずつ着実に、長く愛され続けるブランドでありたいです。
また、個人としては「世界に貢献できるデザイン」を追求したいと考えています。今の服は、着る人に共感を与えることはできても、何か問題を直接「解決」することは難しい場合が多いですよね。例えば、日本のように地震が多い国で、災害時に直接役に立つような技術やデザインなど、人間の生活に実質的に寄与できる仕事を一生続けていきたい、それが僕の大きな夢です。


「好き」を超えて「愛する」段階へ。次世代へのメッセージ
Q:ファッションデザイナーという職業の魅力と、デザイナーを夢見る若者たちへのメッセージをお願いします。
デザイナーの魅力は「社会の代弁者」になれる点だと思います。誰しも社会への不満や政治への反発心といった感情を抱くことがありますが、それを表現する手段は通常、言葉や文字に限られていますよね。でも僕たちには「服」という、もう一つの強力な手段があります。人々が日常的に身にまとう服を通じてメッセージを伝えられること、それが最大の魅力です。
デザイナーを夢見る学生さんに伝えたいのは、ファッションを「好きな段階」から、さらに一歩進んで「愛する段階」まで行ってほしいということです。単に綺麗な服を着て楽しむのは、表面的な「好き」に過ぎません。実際にブランドを運営すると、資金繰りや工場の管理、発注作業など、本当に過酷で地味な仕事が山のようにあります。
しかし、そのすべての苦しい工程さえも「デザイナーになるために必要なプロセス」として受け入れ、愛せなければなりません。そして常に「誰かのためにデザインしている」という心を忘れないでください。自分が着たいものだけを作るのでは、長くは続きません。他者を思いやる心と情熱さえあれば、年齢に関係なく必ずデビューし、歩み続けていくことができるはずです。
(インタビュー:2026年3月)

